0.予備試験短答の一般教養の対策

予備試験の最初の関門、短答式試験には、一般教養科目があります。
全42問から好きな20問を選んで解く形式です。
1問につき3点の配点で、計60点と、他の法律科目2科目分の配点があり、合否を左右しうるものと言えるでしょう。
しかし、42問は社会科学、自然科学、論理問題、英語等の複数の分野からなり、好きなものを選べるとはいえ、高得点を取れるとは限らない科目です。
全体の平均点は25点前後で、配点の4割超となっています。


難易度がセンター試験レベルから大学低学年レベルのものが多いとされていることから、センター試験で複数科目を受験した国立大学の学部生が有利であると言われています。
大学受験で社会理科を2科目ずつ受験科目とした私も、3回受けた本番と、複数回受けた模試で、40点を切ったことはなく、得点源としていました。
そのような状況を捉えて、予備校でも「一般教養科目は捨てるべき」「予備試験短答は法律科目だけで受かることを目指せ」というように指導しているのを度々見かけます。
これは、ある一面においては真実かもしれません。
法律の試験にもかかわらず、どういうわけか一般教養と題された簡単ではない問題を解かされて、気分がよくないことの裏返しからこのような過激とも思える主張に傾くこと自体には、一定の共感を覚えます。



しかし、以前同じく一般教養科目を得点源としていた友人たちと話していた際に、共通の認識としていたこと点がいくつかありました。
その中心となるものは、一般教養科目の解き方は、集中して勉強をしてきた他の法律科目とは異なる、ということです。
その点を無視して、一般教養は捨て、適当に解く、と割り切ってしまうのは、試験対策上、受験指導上、決して適切ではないと考えます。
ここでは、誰にでもでき、そして一読するだけであり方を変えられるその考え方の一例を紹介できればと思っています。


あくまで素人たる受験生同士の感想なので、絶対の正解であるとは思いません。
それでも、勉強の一助となれば幸いです。



1.一般教養は捨てられない

前提として、一般教養科目が捨てられる科目とは限らないことを確認します。


司法試験予備校の中には、一般教養が対策不要である旨述べるものがあります。
そして、その主な論拠は①法律科目のみで合格が可能であること②範囲が広く対策が困難であること の2点です。
このうち②については次の章以降で触れるとして、①は本当でしょうか。

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(資格スクエアのブログの一部抜粋 元記事のリンクはこちら)


私見では、仮にそれが本当なら、受験者比での合格率が20%強にとどまることなどありえないと考えるため、明らかに誤りであると考えていますが、念の為計算をしてみましょう。


予備短答の合格最低点は270点中160点から170点ほどで、昨年(2019年)は162点でした。
その配点のうち、60点を占めるのが一般教養科目で、残りの210点が法律科目です。
法律科目のみで合格点の162点を取ることは、どれほどの難易度なのでしょうか。



典型的な出題形式として、3つの選択肢の正誤を答え、そのうち3つが正解で3点、2つが正解で1点が入るというものがあります。
この試験形式を前提にすると、期待値が合格点の162点を超えるには、選択肢ごとの正答率が91%弱になる必要があります。
運転免許を取るための学科試験は、正答率が90%以上で合格となることを考えると、条文数で比較すると六法だけで考えても30倍もの量のある予備試験短答でそれを実現するのが困難なことは明らかでしょう。
仮に期待値ではなく70%以上の合格率を望むなら、選択肢ごとの正答率は95%前後が要求されます。
これは、科目ごとで2選択肢までしか間違えられないことを意味し、異様なプレッシャーの元の受験をすることとなります。
(なお、この出題形式は他の出題形式と比べ著しく期待値が低く出るものではないほか、この出題形式が多く出る憲法の科目別平均点が他の科目より低いということはありません。)



仮に一般教養で平均点の25点前後が取れるとすれば、選択肢ごとの正答率は85%弱で足ります。
数字が大きく変わらないように思えますが、1.5倍強の誤答が許容されることとなると考えれば、その差はかなり大きなものとなります。
誤答を半分近くまで減らす努力をするよりは、それが論文試験に一切役立たないとしても、一般教養科目にほんのちょっとのリソースを割く選択をすることが決定的に愚かな選択だとは考えがたいところです。
一度でも受験を経験した方なら想像ができるでしょうが、9割近くまで正答を選べるようになってから、正答率を1%伸ばすのはおそろしく大変なことです。



このように、「一般教養科目が0点でも合格する」というのは誇張がすぎ、法律系予備校のポジショントークにすぎないと見るのが妥当でしょう。

2.一般教養との向き合い方・出題形式

そこで、一般教養科目においても一定の点数を取ることを目指すべきです。
しかし、前述の通りセンター試験レベルかそれ以上の難易度の問題が多いことを前提とするならば、新たにイチから勉強をすることは骨が折れます。
そのため、具体的な勉強方法を考える以上に、現場での考え方で改善することができないか考えることになります。
具体的には、以下のような類型に問題を分けて、それぞれごとに対策が考えられそうです。

1)前提知識を要さない問題
2)前提知識を要する問題
2ー1)そのうち手持ちの知識が十全で、選択ができる問題
2ー2)知識が十分でなく、一つに絞り込むことができない問題

大きく分けて、上の2つに、前提知識を要する問題はその中でも2つに分けられることになります。
そしてその大半は前提知識を要する問題なので、まずは前提知識を要さない問題を探し出すところからはじまります。


まず意識すべきは、このように分けられること自体です。
解答用紙が回収されていくのを見ると、そこそこの人数の人が前から20問に1をマーク、のような形で提出しています。
これは明らかにもったいないことです。
以下のように類型ごとに考えて、解答できる問題を厳選すべきです。


なお、仮に勉強する時間が取れるとしたら、どのように勉強すべきかはこちらで書いています。

3.落としてはいけない問題

前提知識を要さない問題は、絶対に落としてはいけません。
先述のように、センター試験レベル以上の問題が出る以上は、わからない分野の問題は基本的にはピンとこないことが大半です。
そこで、論理問題や国語の問題にすぎない問題は、なんとしてでも死守することになります。
具体的には、ほかに時間をかけるような箇所がないことから、1問に10分以上かけてでも正解を出すことすら推奨されるほどだと思います。


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(令和元年 予備試験短答式試験 一般教養科目第10問)

具体的には、上記のような問題がそうです。
その場でルールが示されて、それに基づいて考えてみるような問題です。
令和元年のものでいえば第9問、10問がこれにあたります。
例年必ず2問は出題されており、年によっては3問以上出題されていることすらあります。



また、現代文の問題があります。
著作権の問題から公表はされていませんが、令和元年でいえば第7問がこれにあたります。
これも同様に、例年必ず1問出題されており、迷う部分もありますが、死守すべき問題です。


まずはこの最低3問を正解することから、一般教養科目ははじまります。
もし難易度が高く感じるのであれば、後述の通り過去問や公務員試験のテキストで勉強するのもありでしょう。

4.前提知識を要する問題

次に、前提知識が必要な分野の問題を解いていくこととなります。
先ほど分類した通り、必要な前提知識を有している場合と、有していない場合があります。
先に、前提知識を有している場合の問題を使って解いていきましょう。


ここは、多くの人にとり解ける分野が異なるため、詳述は避けます。
念のため書いておくべきこととしては、英語の問題は決してセンター試験レベルのものばかりではないということです。
一般教養の英語の問題も、著作権の関係で問題文が公開されていません。
そのため、その難易度については様々なことが言われます。
客観的にいえることとしては、語彙レベルとしては東大受験向けの英単語帳である鉄壁未掲載の単語が問題文中に複数登場すること等が挙げられます。
それゆえ、難関大学受験者であっても決して得点を期待できるとは限らないのが実情です。
身の回りのTOEIC900点以上の方や、国連英検を取得されている方でも、出題される問題全てを選択・正解していることはあまりないことからも、その難易度が伝わるかと思います。
伊藤塾をはじめとする短答模試の英語が例年比較的簡単めに作成されていることから、ここから点数の稼ぎ頭として英語を想定する方が毎年一定数いますが、本番で面くらわないよう、注意しておくのがよいと考えます。



前提知識があることから、サクサクと解き進めてしまいましょう。

5.前提知識が不足したまま解く問題

前提知識で点数が取れるところが終わったら、いよいよ前提知識が不足した状態で解いていく時間が始まります。


ここからが本番です。
一般教養で比較的高得点が取れる人の多くは、60点近くを取る人を除いては、ここからの絞り込みでどれだけ期待値が積めるかに長けた人です。



まずは、前提知識があることを想定されてはいるものの、問題文の立て付けから現場で考えることができる問題を探していきます。
具体的には、ほとんど論理問題同様にルールが提示されている場合か、選択肢中に一般常識に照らして明らかな誤りを含むものを指します。


前者としては、次のような問題があります。
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(平成29年度 予備試験短答式試験 一般教養科目 第15問)

経済の問題です。
本来は、前提知識としてネットワーク効果について知っていれば説明書きを読むことなく考えることができそうです。
しかし、この問題では丁寧にネットワーク効果の説明がなされているため、これに当てはめながら考えていけば解くことができます。
選択肢2は、電気自動車の値段が下がろうが「既にその製品を利用している消費者」にはもう関係がないため、明らかにネットワーク効果と関係がないことがわかります。
他の選択肢が正しいかどうかはよくわかりませんが、選択肢2が誤りであることがわかるので、これで正解です。



このように、ルールに則り読み進めるだけで正答となる問題が少なからずあります。
出題者の想定としては前提知識を要する問題の分類だったはずが、容易に解けてしまうような場合です。



その双方の要素を含む問題として、次のような問題があります。

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(平成30年 予備試験短答式試験 一般教養科目 第5問)

模範的な考え方としては、セメント産業が主要な消費地に近接するのは、セメントが固まりやすく長期の輸送に向かないから、という知識から、5を選択するものが考えられます。
しかし、現場においても、主原料が鉄鉱石等の鉱石である鉄鋼業は原料地に近い(選択肢2)のに、同じく鉱石である石灰岩は消費地に近い(選択肢5)というのは、ルールに反するのではないかと疑うことが考えられます。
そうすれば、「石灰岩の単位重量当たりの輸送費が安価」というのが誤りなのではないか?ということに思い至る可能性があるでしょう。




このように、長々とルールが書いてある問題は、その場でルールを適用して考えることが可能な場合があり、前提知識なくして推理を進めていくことが可能です。
例年1問か2問出題があり、点数源となりえます。


一般......とまで言えるかはわかりませんが、自らが有している常識的な知識を応用することもできます。
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(平成30年 予備試験短答式試験 一般教養科目 第33問)

知識としては知りませんでした。
表面の汚染により質量が変動することが問題なら、酸化等しづらい金か白金が答えなのだろうと考え、後述の二択に持ち込みました。
ただ、私は万年筆を収集するのが趣味で、ペン先の合金がイリジウムと白金からなることがあるというのを知っていました。
そこで、イリジウムとの合金といえば白金だろうと早合点して、それが答えとなりました。

そのような答えの出し方が妥当かは別として、明確に答えがわからずとも、自らが有している知識から自由に答えを考えてよいのが短答式試験で、とりわけ一般教養科目ではそのような傾向が顕著です。




前提知識が十分でない場合であれば、解答には至らなくとも、数択に絞り込むことができる場合があります。
それは、組み合わせ型の選択肢の場合です。
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(平成30年度 予備試験短答式試験 一般教養科目 第21問)

恥ずかしながら、ほとんどわかりません。
しかし、光が屈折するのは、光が通るものによって速さが変わるからである、というようなぼんやりとした知識から、イが誤りとわかれば、選択肢4か5に絞り込めます(正解は4です)。
あとはコインでも投げて決めたとしても、単純に5択をあてずっぽうで考えた場合よりも2.5倍の期待値が見込めます。


このように、組み合わせ型の設問で、1つでも絞り込めそうな選択肢がないかを注視しながら残りの時間を過ごすこととなります。
幸い、組み合わせ型の設問は毎年複数出題されており、令和元年であれば英語の4問を含む12問、平成30年であれば英語の5問を含む20問が組み合わせ型です。
このうちのいくつかでも絞り込むことができれば、格段に点数の期待値が高まります。


一般教養科目が得意な人たちには、少なくない割合で、これらの「前提知識がないまま解く問題」の期待値をせこせこと高める能力が高い人が含まれます。
このような努力は、意識づけ次第で本番ぶっつけでも可能なものなので、彼ら彼女らの特権とせず、試験日最後の90分で限界まで点数に執着する態度を見せることをオススメします。

6.一般教養を勉強するとしたら

以上のことをふまえ、仮に法律科目の勉強が煮詰まった場合に、一般教養科目の勉強をするとしたら、いかなる勉強が考えられるかについて触れます。
前述のことから、勉強の方針は次の3つが考えられます。
1)前提知識がいらない問題を解く練習をする
2)前提知識が必要な問題を解くため、前提知識を確認する
3)組み合わせ型の問題で選択肢を切るため、新たな前提知識の獲得を試みる
1)について、先ほど挙げたような問題に苦手意識を感じる場合には、ひとまず友人等と一緒に過去問の該当問題を解いてみて、得意な人がどう処理しているかを眺めることが考えられます。
それでも足りないと感じる場合には、就職活動で用いられるウェブテストの論理問題を練習することや、公務員試験の同様の問題で練習することが考えられます。
いずれも本屋等で立ち読みをすると良いでしょう。





2)3)については、基本的には確認対象が膨大となってしまうため、あまりオススメはしません。
しかし、中には比較的短時間で点数を挙げられる確認内容が想定できます。


2)に関連するところでいけば、日本史・世界史の年代並び替え問題に対応するために、大まかな時系列をざっと確認する参考書を参照すること等が挙げられるでしょうか。
手持ちの高校時代等に用いた資料集を用いるのでもいいですし、専用の安価な参考書を購入するのもいいでしょう。
私は速攻で確認する用の参考書を持っていたため、それを用いました。





3)に関連するところでいけば、頻出分野か、組み合わせ型の出題が多い科目であれば、わざわざ対策することが考えられるかもしれません。
頻出の題材としては、経済の価格弾力性にかかる出題は平成27,28,30年に出題されたほか、文系にも馴染みやすくほぼ毎年出題されている地学の気象分野が挙げられます。
経済の財に関する出題も複数回の出題があり、簡単なウェブサイトでの解説を読むことも考えられるかもしれません。
地学は例年組み合わせ型の出題がとても多く、公務員試験レベルの選択肢をざっと確認する程度であれば勉強時間を割く価値があるかもしれません。





過去問集はあまり充実しておりません。
そこで、基本的には公式HPから問題を取得して、解いてみることになるかと思います。
私は利用していませんでしたが、少し古い版については一般教養の過去問テキストが存在したため、参照してみても良いかもしれません。





いずれにせよ、法律科目の学習の妨げにならないことを前提に行うべきでしょう。
「法律科目だけで受かる」ことが大半の受験生にとって現実的ではないと感じる一方、法律科目のみで受かるだけの実力をつける方向性での学習は、論文式試験や、それ以降との関係で完全に正しいもので、それが最優先であること自体は明らかなためです。


7.実際の点数の取り方の例

参考までに、私が本番で選択した問題の例を載せます。
私は、令和元年の予備試験短答では、
前提知識を必要としない→第5,7,9,10問
前提知識を有するor一般常識に照らして解いた→第2,25,27,36,37,38,40,42問
二択から選んだ→第3,11,14,28,29,33,39,41問
で、確定36点+9点で45点になりました。

正解したうち前提知識を有していた問題の分野は、世界史・生物基礎・物理基礎・数学・英語でした。

二択に持ち込んだのは世界史・政経・地学基礎・化学・英語でした。
一般的な傾向を提示するのは困難ですが、一般的にはこれらに経済を加えた分野は二択に持ち込みやすい印象があります。




このように、知識を有していた部分からさらに9点を上乗せすることができました。
8問を闇雲に選択すれば期待値は1.6問分しか望めませんが、二択に持ち込む意識で解くことで期待値を4問分にまで上げることができました。



前提知識なしで選べるのが3問、前提知識を有していたのが2問だったとします。
平均点の27点を獲得するには、15問中あと4問の正解が必要です。
闇雲に5択を選択すれば、正解問題数の期待値は3問であり、24点しか望めません。
一方、二択に持ち込む問題を4問選べれば、期待値は4.4問となり、無事期待値が平均点を超えることになります。
このように、「二択に持ち込む問題を探し出す」という意識は一定の効果を奏しうるものです。
模試や答練、本番を通じて、なんとか点数を稼ぎ出すことができるようになれば合格に少し近づくかもしれません。

8.おわりに

ここまで一般教養科目との向き合い方について書いてきました。
一学生の不勉強なままでの文章であるため、不十分な点が多々あると思います。
その中でも、参考になる点があれば幸いです。

また、可能な限りより改善をしたいと思っているため、何かお気付きの点があればコメント等でおしらせください。


ここまで読んでくださりありがとうございました。


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