0.司法試験・予備試験の論文答練に参加しよう
司法試験・予備試験では、どちらも論文式試験が課されます。司法試験ではおよそ2倍、予備試験ではおよそ5倍の倍率となる試験で、どちらにおいても対策の中心となっているものです。
出題形式は、特定の事例問題に対して、文章で解答するもので、その試験形式や思考方法に慣れるには、一定の対策が必要であると言われています。
その一つの方法として広く使われているのが、予備校が主催している論文式試験の答練(答案練習会)です。
本番の論文式試験に近い環境で、他の受験生とともに、新作の問題を解くことから、論文式試験対策に有用であるとされています。
効果的に答練を受講することで、試験の合格に近づくかもしれません。
この記事は、論文答練の特徴をまとめ、その受講の要否と受講にあたっての注意点を指摘することを目的としています。
いずれの試験においても、公開の答練として有名なのが伊藤塾のコンプリート論文答練(コンプリ)と辰巳法律研究所のスタンダード論文答練(スタ論)です。
私は、予備試験に最終合格した年に両方の答練を取っていたため、多少なりとも両者の特徴がわかっているつもりです。
そこで、独学等と比較した答練の特徴を指摘する際には、両答練の比較も同時に指摘するようにしています。
項目によっては別ページにまとめているものもあるため、適宜参照してみてください。
論文答練の受講の是非、受講する答練の決定に役立てば何よりです。
(なお、答練としては他にもアガルートアカデミーのものも存在します。こちらも予備試験合格者で受講していた方は一定数いるように思います。ただ、オンライン添削で教室受験がなく他の答練と系統が異なることと、何より私自身が受講をしていなかったことから、比較対象から外しています。アガルート生を中心に根強い人気があり、こちらもいい答練であるように聞いています。)
目次
1.答練の特徴
2.他人からのコメント・添削を受けられる
3.相対評価の相場観がわかる
4.本番に近い環境で練習ができる
5.値段が安いとは言い難い(奨学生・割引制度がある)
6.問題作成・解説が予備校によってなされる
7.おわりに
1.答練の特徴
予備校によって主催されている答練には、演習書等を用いて独学をする場合と比べて、以下の5つの特徴があると言われることが多いように思います。- 他人からのコメント・添削を受けられる
- 相対評価の相場観がわかる
- 本番に近い環境で練習ができる
- 値段が安いとは言い難い(奨学生・割引制度がある)
- 問題作成・解説が予備校によってなされる
答練の特徴に上記のようなものがあることから、これらの点に着目して答練の受講の是非・選択をしていくことになるでしょう。
2.他人からのコメント・添削を受けられる
答練の一番の特徴であり、メリットは、他人からのコメント・添削を受けられることにあります。論文式試験においては、自分が提出した答案のみで評価がなされます。
そのため、自分で試験に必要な知識をインプットできているつもりでも、それが採点者に理解・評価されるように表現できなければ、思ったような結果に繋がりません。
そこで、司法試験等に合格した、一定の理解を有する方に添削をしてもらうことで、アウトプットの質を高めることができます。
後掲のリンク先にある通り、一定の点数が示されて返されることから、絶対的な実力評価を得ることができることも、そのメリットの一内容です。
このようなメリットは、他人に添削してもらえる機会がある方には、あまり魅力的には思えないかもしれません。
たとえば、同じく法曹志望の友人と自主ゼミを組んでいる場合や、大学や法科大学院で答案練習会の機会や法律レポート等を出す機会が設けられているような場合、です。
しかし、特に前者で現実にあり得る懸念として、知り合いに自分の答案を見てもらうことが恥ずかしいと思うような場合や、他人の答案に口出しすることに抵抗がある場合があるでしょう。
また、演習する教材や、その具体的な採点基準等がない場合は、うまく自主ゼミが機能しないこともありえます。
そういった場合には、予備校の答練を利用してみることが考えられます。
(逆に、答練を受講する中で答案作成に慣れてきたのちに、受験生同士で自主ゼミを組むようにする、というのもよさそうです。身の回りにもそういう方は一定数います。)
伊藤塾のコンプリと辰巳のスタ論を比較するにあたっては、その採点表の差が挙げられます。
答練では、採点の質を担保するために、採点の目安となる採点表が設けられています。
そこで、添削・コメントも、ある程度その採点表に拘束される向きがあるため、その比較にあたっては採点表の特徴を比較するのが良いでしょう。
コンプリでは、各答案の特徴を総合的に評価できるよう、おおざっぱな採点表が設けられています。
そのため、それぞれの答案の特徴を捉えた添削がなされる傾向にある一方、添削者によってその内容がピンキリである印象があります。
一方スタ論は、かなり詳細な採点表が設けられています。
そのため、採点表を通じて書くべきポイントを学ぶことができる傾向にある一方、相対的に硬直的な採点が行われる印象があります。
どちらの答練を取るかは、その好みによって分かれることになるでしょう。
詳しくは、下記のリンク先を参照してみてください。
参照: (添削編)伊藤塾コンプリ答練・辰已予備スタ論の答練の比較
3.相対評価の相場観がわかる
次に挙げられる特徴としては、同じ問題を多数の受験生で解くことになるため、その相対評価の中での自分の立ち位置が把握できることが挙げられます。司法試験・予備試験の論文式試験は、共に相対評価で点数がつく試験です。
(参照: 予備試験論文の採点方式)
もちろん絶対評価で適当な点数を得ることを目指すことが妥当な努力の方向ではあると思いますが、その要求ラインの推定にはどうしても母集団の把握が必要です。
答練の受講は、この母集団の把握による相対評価の相場観の形成を促します。
これは先に挙げた自主ゼミでは得難い利点で、人数の多い答練で、どれほどの問題に対してどのような点数分布となるかを把握することができます。
相場観が形成されると、おおまかには、判例や学説に関するかなり的確な理解が求められており、それを書けなければ書き負けるのか、現場で思考する問題として何かしら自分の考えが書けていればよいのか、というような判断が一定程度できるようになります。
この判断なしに分量や内容が不適切な記述をしてしまうと、相対的に低い評価になってしまうことがありえ、重要な判断だといえます。
伊藤塾のコンプリと辰巳のスタ論は、回にもよりますが、いずれも数百人規模の答練です。
そのため、相対評価の相場観を養うのにあまりに十分な人数がいるといえます。
そして、全体の点数分布が公表されることや、最上位の答案が見本として公表される点も共通しています。
差があるのは、次のような点です。
- 予備スタ論では、順位表が出ないため、自分の具体的な順位はわからない。
- 司法試験スタ論では、本番でなされる得点調整がなされるため、 採点者による偏りが是正される。
つまり、予備試験の答練においては、順位表が公表される点でコンプリが勝る一方、司法試験の答練においては採点者の偏りが是正される点で、より本番に近い相場観を養いうるスタ論が勝るといえそうです。
4.本番に近い環境で練習ができる
決まった時間を計って、大勢の中で集中して答案を書ききるのは、試験慣れした人でなければなかなか簡単なことではありません。予備試験では1日に最大6時間、司法試験は1日に最大7時間答案を書くわけですから、これはかなり大変です。
予備校に行って答練を受ける場合には、大勢の人の中で、本番と類似の時間割で答案を書く練習ができるため、この訓練になります。
これも自主ゼミ等ではなかなか互換しづらいところではあります。
とはいえ、場慣れだけのために電車で往復して予備校に通うことに抵抗がある方もいらっしゃるかもしれません。
個人的には、その点を補って余りあるメリットがあると感じています。
この点については伊藤塾と辰巳で差はほとんどないでしょう。
個人的には、辰巳東京本校のパイプ椅子が五反田の論文会場のそれと似ていて、安心して試験に臨めたようにも思いますが、誤差かもしれません。
5.値段が安いとは言い難い(奨学生・割引制度がある)
答練が明確に独学等に負けるのは、その費用の高さです。具体的には別記事に任せますが、答練は通常料金でだと1問あたり2000円前後します。
学者による解説がついた演習書は、何十問も掲載されて3000円前後であることを考えると、なかなか難しいところです。
たとえば、いずれも受験生から人気のある刑法事例演習教材は48問で、事例演習刑事訴訟法(いわゆる古江本)は33問で3000円台です。
添削の有無を差し引いても、演習書による独学はかなり割安に思えてしまいます。
答練からするとこのビハインドを埋めることはなかなか困難ですが、奨学生制度や、割引制度を用いることでかなり金銭的負担を軽減することが可能です。
特に、全額免除となった場合にはこのデメリットを完全になくすことができます。
誰にでもチャンスがあるものなので、まずは奨学生試験を受けてみるところから始めてから検討するのでもよいかもしれません。
詳しくはリンク先から確認してみてください。
参照: (奨学生・値段編)伊藤塾コンプリ答練・辰已予備スタ論の答練の比較
6.問題作成・解説が予備校によってなされる
最後に、演習素材が予備校によって作成されている点は、良くも悪くも特徴といえそうです。具体的には、予備校の問題や解説を読むよりは、実際に民事訴訟法の問題を作っている勅使河原先生の解説書等を読んだ方が勉強になるのではないか、というような懸念は、批判としてありえそうなものです。
逆に、事例問題の解決に直接に役に立つかわからない本を読むよりは、試験問題を解くことに特化した予備校の教材を使った方が、学習効果が高いのではないか、というような意見もありえるでしょう。
この点については、やや乱暴ですが、好みとしかいえないように思います。
より問題作成委員の問題意識に近いのは学者の先生が書いたような本かもしれませんし、実戦的な知識や書き方が学べるのは予備校の教材かもしれません。
個人的には、どちらか一方に限る必要はなく、いろいろ試してみながら、自分に合う学習方法を見つけ出せればよいのかな、と考えています。
この点についても、伊藤塾も辰巳も大きな差はないでしょう。
(ただ、伊藤塾のコンプリ答練は、その名が、伊藤塾の論文向け講座である論文マスターを補完するという意味でコンプリートとつけられている通り、やや分野に偏りがある印象です。比較材料にするには不確実にもほどがあるので、この点につき感想がある方がいたら教えてください。)
7.おわりに
以上の通り、答練に参加することには、いくつものメリットがあります。特に、独学では得がたいメリットである本番類似の環境等には、大きな価値があると考えます。
一方で、コスト等の懸念点が存在することも事実です。
まずは、答練の奨学生試験を受けるなどして、実際のコストを把握することで、うまく重要視している事項を検討できそうです。
答練の受講の是非を適切に検討して、いい結果に繋がることを願っております。
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試験日程延期を受けての直前答練追加まとめ(予備試験・司法試験)
(奨学生・値段編)伊藤塾コンプリ答練・辰已予備スタ論の答練の比較
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