0.法律科目基礎科目(刑事)の対策について

予備試験論文式試験の科目として、法律基礎科目が存在します。
法律基礎科目は全体の2割である100点分を占めます。

法律科目基礎科目は民事系と刑事系からなります。
それぞれが50点分相当の配点からなることになり、他の法律科目と同様の配点であることになります。
そのため、当然他の科目と同様の重要性があると言えるでしょう。
それにもかかわらず、基礎講座が相対的にあまり充実していないからか、他の科目と同等の対策をする受験生はあまり多くないのが実際です。


今回はその刑事系部分(刑事実務基礎、刑実)について書いていきます。
私は刑実を得意にしており、答練や模試でも得点源にしていたこともあり、本番でも最高評価のA評価を得ることができました。
そこで、勉強の参考になることが書ければ幸いです。





1.刑事実務基礎の定石(定石本)

大仰な書き出しでしたが、実質的には「刑事実務基礎の定石」という参考書の書評です。
1冊で特定の科目の対策が終了する参考書はなかなかありませんが、この1冊は後述の通り刑事実務基礎対策のほぼ全てを網羅します。
記事読了後にはぜひ書店等でその内容を確認してみるとよいでしょう。
本記事でも折に触れて引用します(ページ数や記載は初版のものです)。




なお、ちょうど本日(2020年6月23日)に発売となった基本刑事訴訟法も、後述する手続理解等の面で優れていると話題になっています。
私が受験した時点では発売されていなかったため言及は避けていますが、こちらも書店等で確認してみるとよいかもしれません。




2.刑事実務基礎の出題方式・傾向

近年の刑事実務基礎の出題は、大きく分けて①事実に即した条文の適用②刑事手続の仕組みの摘示③法曹倫理の3つからなされます。

【事実】に現れた証拠や事実,手続の経過を適切に把握した上で,法曹三者それぞれの立場から,主張・立証すべき事実,その対応についての思考過程や問題点を解答することを求めており,刑事事実認定の基本構造,刑事手続についての基本的知識の理解及び基礎的実務能力を試すものである。 (令和元年 出題趣旨より)



論文式試験の試験科目となっている刑法・刑事訴訟法と同様、この2つの法律を中心に用いて事例を解決していくこととなります。
それにもかかわらず、刑法・刑事訴訟法という科目とは別に刑事実務基礎が試験科目として用意されているのは、異なる能力が問われているからです。

大ざっぱに比較すると、刑法・刑事訴訟法は、法律科目であることから、事例問題の解決を通して理論面の理解を問うものといえます。
その一方、刑事実務基礎は、「実務」の名を冠するとおり、その実際の適用についての理解を問う傾向にあります。
そのため、試験問題も、事実を適切に条文に当てはめられるか、刑事手続がどのように進むか理解しているかについての設問が並んでいます。

平成27年以降の問題をどれか1年分見てみれば、そのことがわかるでしょう。
(参照:令和元年試験問題)






3.考慮要素の暗記と実践

まず、事実に即した条文の適用ができるようになるには、どのような用意をしていけばよいでしょうか。


試験問題を見れば、たくさんの参考になる事実があるため、これをその場で適宜評価していき、妥当な解決を目指す、という解法もあるでしょう。
実際の事例の解決にあたっては、事実にできる限り向き合う姿勢が重要になるでしょうから、このような態度が間違っているとはいえません。

しかし、試験時間がかなりタイトで、緊張感も高まる本番で安定したパフォーマンスが発揮できるとは限りません。
本番だけうまく力が発揮できずに不合格となるようなことがあってはなりませんから、できる限り不確定要素は排除すべきです。


そこで行うことが考えられる対策が、その条文適用に用いる考慮要素をあらかじめ大方おさえておくことです。


何より具体例を見るのがいいでしょう。
令和元年の刑事実務基礎の設問1の問題文は、以下の通りです。
下線部㋐に関し,裁判官が,Aにつき,刑事訴訟法第207条第1項の準用する同法第81条の「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある」と判断した思考過程を,その判断要素を踏まえ,具体的事実を指摘しつつ答えなさい。
「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある」と判断する思考過程が問われています。
刑事訴訟法にも刑事訴訟規則にも具体的な思考過程は書いていないため、自分なりに事実を評価して、要件を満たすかどうかを考えていきます。



......というような現場思考の問題ではありません。
このような事実認定の思考枠組みや考慮要素は、あらかた決まっているものです。
具体的には、次のような思考過程を経ることになります。

  1. 罪証隠滅行為の対象
  2. 証拠に対する働きかけの態様
  3. 客観的に罪証隠滅が可能かどうか、実効性があるか
  4. 被疑者に罪証隠滅の意図があるか
これらを順に考えていくこととなっています。


このことを覚えておけば、この問題はかなり機械的に解決できます。
上の4項目について、基礎付ける事実を抜き出して、それぞれ肯定する評価を付すれば終了です。


このように、事実認定の思考枠組みや考慮要素を暗記、ないし意識して理解しておくだけで、事実認定の問題は対処することができます。


とはいえ、あらゆる条文のあらゆる要件に関する考慮要素を暗記することは現実的ではありません。
そこで、ある程度の範囲の限定が必要です。
考えられる範囲の一例として、刑事事実認定重要判決50選や刑事事実認定入門を読む、というような対策があるでしょう。
むろん効果的なのは間違いないでしょうが、簡単に対策ができる、という今回の記事の趣旨からしても、試験対策の意味でも、やや過剰な感が否めません。






そこで、おすすめなのが最初に触れた「刑事実務基礎の定石」です。
この書籍には、重要な事実認定の考慮要素等について端的にまとまっており、かつ過不足ない記述があります。
たとえば先ほどの「罪証隠滅のおそれ」についても、勾留の要件としてですが、記載があります。
過去問に登場する事実認定問題のほとんど(私が記憶する限りではすべて)に適切な解説が載っています。
そして数が多いわけではなく、十分暗記可能な量に厳選されています。



定石本の記載を暗記ないし理解しておけば、事実認定問題については間違いなく他の受験生に負けることのない論述ができるものと考えています。


4.刑事手続の理解

次に、刑事手続に関する問題です。
刑事訴訟法の科目でも、刑事手続の理解は問われますが、どちらかというと法理論面に関する理解が問われるものです。
一方で、刑事実務基礎においては、刑事手続自体への理解が問われる出題が多くなされます。
先ほどの勾留の要件のようなものもあれば、短答でも問われるような公判前整理手続の流れに関する理解や、ときには刑事訴訟規則に関しても記述が求められます。

平成29年の設問3が好例でしょうか。
下線部ⓒに関し,弁護人は,刑事訴訟法第316条の15第3項の「開示の請求に係る証拠を識別するに足りる事項」を「Vの供述録取書」とし,証拠の開示の請求をした。同請求に当たって,同項第1号イ及びロに定める事項(同号イの「開示の請求に係る証拠を識別するに足りる事項」は除く。)につき,具体的にどのようなことを明らかにすべきか,それぞれ答えなさい。

刑事訴訟法第316条の2以下は、公判前整理手続に関する条文が並んでいます。
公判前整理手続で設けられている証拠開示手続のうちの一つである、類型証拠開示手続についての理解が問われている問題です。
(その場で要件を見てぼんやり対応することもできるのでしょうが)あらかじめ公判前整理手続の流れについて学んでいることが前提となっている問題であるといえるでしょう。


このように、刑事訴訟の手続に関する規律の理解を問う問題が例年問われています。
これらについて学習することが、主たる対策の一つといえます。


ほかにも、証人尋問に関するルール(多くが刑事訴訟規則で定められています)であるとか、訴因に関連する手続について、理解していることを問うてきます。
このような規定に関する学習は、論文の刑事訴訟法の科目では正面からは問われないことから、テキストで詳細にわたって解説がなされないこともあるでしょう。
また、そのわりには短答でも(ひいては口述でも!)頻出であるため、都度学習しておかったと感じることが多いでしょう。


そこで、簡潔にまとまったテキストを利用するのがオススメです。
刑事実務基礎の定石は、この点についても必要十分な記述があるため、通読して一度条文を確認するだけで、書き負けないだけの知識がつくものと考えます。
短答対策のために、過去問で出てきた知識を単発で暗記するというのではなくて、論文でも使う知識なのだと考え、まとまって学習しておくのがよいのではないかと思います。

5.法曹倫理

最後に、法曹倫理です。
「法曹倫理とは?」となった方も多いかもしれません。
学習用の六法には掲載されていないこともある弁護士職務基本規程に関する理解を問う問題です。
例年民事実務基礎科目か刑事実務基礎科目のいずれかで問われており、一定の対策が必要です。

令和元年の設問4が好例でしょうか。
......A は,「本当は,Vの態度に腹が立って,VやWが言っているとおりの暴行を加えた。しかし,自分は同種前科による執行猶予中なので,もし認めたら実刑になるだろうし,少しでも暴行を加えたことを認めてしまうと,Vから損害賠償請求されるかもしれない。検察官には供述録取書記載のとおり話してしまったが,裁判では,犯行現場にはいたものの,一切暴行を加えていないとして無罪を主張したい。」旨話した。......

......Aの弁護人が無罪を主張したことについて,弁護士倫理上の問題はあるか,司法試験予備試験用法文中の弁護士職務基本規程を適宜参照して論じなさい。
このように、素人目にも弁護士としてどうすればよいのか悩ましいような問題について、弁護士職務基本規程を用いて解決するものです。


まずは、弁護士職務基本規程を手に入れないことには対策がしづらいところです。
検索をして全文を印刷する等の方法が考えられるでしょう。
また、予備試験用六法には付属しているため、これを用いるのもあり得るでしょう。
(参照:司法試験・予備試験用六法の入手・活用)
主要なものだけでいいと割り切るのであれば、概説書にたいてい説明の対象となる条文は引用されているため、それを見るにとどめるのもありかもしれません。


法曹倫理については、たいてい実務基礎科目の講義に付属して講義がなされていると思います。
たとえば、伊藤塾では他の実務基礎科目と名目上は独立した法曹倫理という科目を用意しているものの、単品だけではなくセットでの販売もなされています。
(参照:基礎マスター 法律実務基礎科目(伊藤塾) )


内容としては、だいたいの場合主要な条文について、論点となる話を紹介して終了、のような構成になっているかと思います。
他の科目との重要性から考えると妥当な扱いなのでしょう。
刑事実務基礎の定石においてもおおむね同様の扱いがなされており、有名な論点だけ条文を正しく引いておけるようになっておけば十分なのだなあ、と気がつくと思います。


なんにせよ、多くの時間をかけるのではなく、条文の存在を把握しておき、現場で柔軟に妥当な結論を出してやれればよいことになるでしょう。


民事実務基礎科目でも法曹倫理が出題されることや、ロースクール在学生は授業でも扱うことから差がつきうること、口述試験でも出題範囲となっていることから、そこそこに対策をしたい、と感じる方もいるかもしれません。
私自身はそこまで必要性を感じませんでしたが、一冊くらいケースメソッド系の本を読むのもありなのかもしれません。



6.おわりに


以上の通り、あてはめ、手続の理解、法曹倫理の3つについて理解をする意識でいるだけで終了する科目です。
しかも、なんども申し上げている通り、これは刑事実務基礎の定石を通読するだけで実現する状態です。
ぜひ通読して、即座に得意科目を作り上げてみてください。



実務基礎科目は、対策の方向性がそう複雑でないのに、一般教養科目にならんで対策が遅れがちな科目です。
充実した対策をして、本番を迎える助けができたなら幸いです。



PRを含みます。
↓PR↓
ブログランキング・にほんブログ村へにほんブログ村

関連記事:
予備試験論文の一般教養の対策・解き方
司法試験・予備試験六法の入手と利用